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南 正人 コラム – 2020年3月




森から海への評議員であり、
麻布大学獣医学部動物応用科学科の
野生動物学研究室の南 正人准教授より
コラムを執筆いただきました。


テーマは、
「増えるシカたち」です。



↑タラノキと思われる植物を食べるシカ



 各地でシカが増え、分布も拡がったことが、大きな問題となっています。これまでも、シカはイノシシと並んで、農作物に影響を与える動物でした。近年では、シカは農作物に影響を与えるだけでなく、森林にも大きな影響を与えるようになりました。そこで、生活していたさまざまな小動物がすみかや食料を失いました。きれいな水を供給するために保護されている水源涵養林に影響を与えたり、地面を掴んでいる樹木に影響を与えて土砂崩落の原因になったりしています。地面の草を食べ尽くすことで雨粒が直接地面を叩き、土が雨と共に流れ出し、赤水となって流れ出します。これは、上水道にとっては大きな負担です。そこで、シカの数を抑えようと、対策が始まっているのです。


 しかし、シカは元々林や里山に住んでいた動物です。昔はこんなに大きな影響を与えることはありませんでした。それは、数がそれほどではなかったからだと思われます。オオカミがいた時代もありましたし、オオカミが滅ぼされた後は人間がシカを狩猟していました。厳しい冬が、弱ったシカや子鹿を減らしていたりしました。人間が里山を利用しなくなり、シカは里山を自由に利用することができるようになりました。このようなさまざまなことが重なって、シカが増えていったと思われます。


 多くのシカが同じところで生活していたら、食料がなくなってしまいます。増えたシカは、これまでシカがいなかった高山に進出したり、雪が減ってきた寒い地域にも進出します。そこには、食料となる植物があります。その食料を得て、またシカは増えることになります。(続く)





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